受託開発とは?メリットや自社開発や委任との違いを解説

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「受託開発」は大手SIerが得意とするビジネスモデルです。

開発力が必要となりますが「技術」の他にもスケジュール管理・コスト管理のノウハウが必要となりますし、たくさんの人材の確保とマネジメントも必要です。

受託開発を通して、システム構築における総合的なスキル・経験が身につけられます

いわゆる「プロジェクトマネジメント」というスキルが、自社開発と比較すると圧倒的に身につき、市場価値が高くなります。

一方で

「受託開発はきつい。つらい。」

「受託開発はオワコンって聞いたけど本当?」

とネガティブな噂も聞いたことがあるでしょう。

筆者は受託開発と自社開発の現場に合計14年いましたので、このようなネガティブな噂を聞くと一方的で正しい情報を持ち合わせてないように感じます。

この記事では両者のメリット・デメリットを客観的にお伝えしていきます。

具体的には

  • 受託開発の意味や特徴
  • メリット
  • 受託開発によって形成されるITピラミッド構造

についてを客観的に解説していきます

受託開発の正しい情報を持っていないと、将来キャリアに大きな影響がでます

受託開発に就職・転職を検討しているのであれば必ず一読ください。

受託開発とは

「受託開発」というのは完成義務のない開発業務を引き受けることです。

後述しますが、受託開発とは法律としては業務委託と同等であります。

よく「請負開発」と「受託開発」の違いが話題になりますが、厳密には「請負」と「受託」は意味が異なります。

受託(じゅたく)とは、頼まれて、業務を引き受けること。

業務委託、委託を受けること。

請負も受託であるが、契約という点では委任または準委任同様、契約の目的として受託者は委託業務を処理することとされ、一定成果を出すことは、義務ではない。

参考:Wikipedia

少し難しい文章ですが、要するに以下のような関係になります。

  • 受託:業務を引き受けること
  • 請負:完成義務を約束して引き受けること

受託のほうが請負よりも責任の範囲が狭いということです。

しかし、この意味を厳密に使い分けている人は営業の人間でもない限りいないでしょう。

現場レベルではほとんど同じ意味で扱われています

システムの請負開発はSIerのこと

システムの請負開発をしている会社をSIer(エスアイアー)やシステムインテグレーターと呼びます。

お客様に納品責任がありリスクが高いですが、要件定義やプロジェクトマネジメントなど上流工程が担当できます。

このような経験はIT業界において市場価値が高く、年収も高い傾向にあります。

システム構築のプロを目指すのであれば積極的にSIerも検討しましょう。

SIerについては「SIer(エスアイヤー)とは?仕事内容や分類、SEとの違いをわかりやすく解説」で詳しく解説しています。

自社開発は事業会社での開発

システム開発を自社で行うケースもあります。

自社開発を選択するメリットとしては、機能改善や機能追加がしやすい点が挙げられます。

上記で紹介したとおりウェブサービスに多く見られる開発形態で、機能改善や機能追加を決定してから開発チームに仕様を伝えるまでのフローが非常にスムーズです。

ときには開発チームで意思決定をしてそのまま開発に入るということもあり、どの機能がユーザーに評判が良いのか、デザインはA案とB案ではどちらが良いのかなど、ABテストをしながらすぐに現場でフィードバックしていくことが可能になります。

受託開発ではここまでフレキシブルな対応ができないため、自社サービスを継続的に展開するときに威力を発揮します。

その一方でキャリアについては企業それぞれで違うため、一般的なキャリアモデルがありません。

「自分のキャリアは自分で切り開く」という意気込みの方は良いですが、「楽して働きたい」と考える方にはあまりおすすめできません。

事業会社での仕事については「SIerからWEB系に転職して7年経ったので比較してみた」で詳しく紹介しています。気になる方は必ずチェックしましょう。

委任開発とは?

委任契約というのは業務を遂行するのが目的の契約形態です。

そのため、成果物に対する責任を負う必要がなく、最悪プロジェクトが失敗したとしても報酬は発生します。

結果を出すことにこだわる請負(受託)契約とは異なり「参加することに意味がある契約」になります。

委任契約でよくあるのが、人材派遣型のSE会社です。

他社のプロジェクトに参画して委任契約を結ぶことで自社のSEを派遣します。

委任契約であるため業務を遂行するだけで売り上げになるため、リスクが低いというメリットがあります。

それだけでなく、一度契約を結べば数ヶ月は売り上げが安定するため経営しやすいのです。

同じシステム開発業務でも会社によっては実体が派遣会社であることもあるため業務内容が請負(受託)開発なのか、委任開発なのかを確認する必要があるでしょう。

受託開発のメリット

受託開発をするうえで、メリットが5つあります。

幅広い業界のシステムを担当でき、プログラミング言語もプロジェクトごとに覚えることができます。

また、ある程度の規模であればサーバーやデータベースなどのミドルウェアを使う機会も多くなりますし、チームのスケジュールと品質を意識した開発手順を学べます。

なによりもシステム開発という仕事は無くならないため、定年までのキャリアを形成しやすいという点は大きいでしょう。

詳しく1つずつ見ていきます。

幅広い業界のシステムを担当できる

受託開発の場合、顧客(クライアント)は「システムを作りたい企業や団体」になります。

物流、医療、飲食店、金融から官公庁まで、現代の企業・団体でシステムを使わずに業務を行っているところはほぼ無いと言っていいでしょう。

受託開発ではこれらのシステム開発を受注することになるため、多岐にわたるシステムに関わることになります。

1つのプロジェクトが終わると次のプロジェクトで新しい挑戦が生まれるため、刺激的な業務といえるでしょう。

幅広いプログラミング言語を覚え、実務で使える

顧客によって実現したいシステムは千差万別です。

Webアプリ、組み込み端末、タッチデバイス、スマホアプリなど、どのようなソフトウェアを求めるかによって最適なプログラミング言語が採用されます。

そのため、プロジェクトごとにさまざまな言語を覚え、幅広い技術力を身につけることができます。

サーバーやデータベースなど幅広いミドルウェアをさわれる

システムの規模が大きくなってくれば、サーバー連携、データベース連携などの要件も必然的に増えてきます。

サーバーで言えばLinux系やWindows系で求められるスキルはまったく違います。

データベースもオラクルやSQL Server、mysqlなどさまざまなミドルウェアがあるので、プロジェクトごとに新しい技術に触れる機会があります。

スケジューリング・品質を意識した開発ができる

受託開発はスケジュール、つまり納期を守ることが最優先されます。

そのため開発においては、いかにしてスピーディかつ高品質なシステムを開発するのかが肝です。

ある程度の歴史と実績がある会社ならプロジェクト運営のノウハウも蓄積されているので、効率的な仕事の進め方、考え方を学ぶことができるでしょう。

定年までのキャリアがある

受託開発というのは基本的に自社製品を売るということがありません。

そのため、「作ったは良いけど売れなかった」ということがなく、受注できる限り仕事が常に発生し続けます

多くの人が最初はプログラマーとしてキャリアをスタートして、次第にシステムエンジニア、プロジェクトリーダーというようなキャリアを進んでいきます。

年齢が上がって経験も積んでくれば自然とプロジェクトを管理する側になっていくケースが多く、キャリア形成しやすいというメリットがあります。

受託開発はきついって本当?

「受託開発はきつい」と聞いたことはありませんか?

筆者は受託開発と自社開発をそれぞれ7年間経験してきました。

その経験からお伝えすると、受託開発は納期や仕様がガチガチに決まっていることもありクリエイティブさを出すポイントが少なくつまらないという印象はあります。

多くのプロジェクトでは予算に余裕がないため短期で開発を終わらせる必要があり、スケジュール的にきつかったり精神的につらいと感じることもあります。

では、「受託開発よりも自社開発の方が良いのか?」というとそうでもありません。

受託開発よりもSaaSやWebサービスを提供している自社開発の方が待遇が悪いケースが多いためです。

具体的には自社開発の方が年収が低かったり退職金がないケースが多いです。

なぜなら、受託開発では見積工数から原価と利益を加えるため利益率をコントロールできますが自社開発では売上の予測が難しいという特徴があります。

さらに競合他社から類似サービスや製品がすぐ提供される可能性があるため安定した利益が確保できないどころか、捻出した利益は事業投資として再投資するため人件費は上がりづらい状況です。

新規事業の場合は3年程度は赤字のため昇給すら希望しづらいでしょう。

自社開発を希望する場合は事業の優位性が高く待遇の良い大手企業や利益が豊富な企業を選びましょう。

中小企業の自社開発企業は受託開発よりも待遇が厳しくなる可能性が高いです。

セキュリティの高い受託開発案件は客先常駐が多い

客先常駐はセキュリティが高い案件に多く見られます

反対に自社開発をしたいのであれば大手のSIerが良いでしょう。

市役所などの個人情報が多い案件は客先常駐が基本

市役所などの官公庁系や大手通信系企業などは外部に情報を持ち出すことを固く禁じており、セキュリティレベルが高いです。

そのため、開発は客先常駐ということが多くなります。

客先常駐ではクライアントと一緒に仕事をすることが多くなるため、社会人としてのマナー、お客さんへの対応など自社開発よりもコミュニケーション能力を求められます。

自社で開発をしたいなら大手SIerがおすすめ

自社で開発するには開発拠点(オフィス)、開発に対応できる人材(リソース)が必要不可欠です。

これらを満たすにはある程度の規模の企業である必要があり、大手SIerの方が自社開発しやすいと言えるでしょう。

もちろん、少人数で開発している企業もありますが、安易に入社したらただの委託開発会社だった、ということもあります。

どのような開発形態なのかは事前に確認しておきましょう。

大手SIerについては「大手SIer年収・売上ランキングと選び方の4ステップ」で具体的な企業をピックアップしています。

ぜひチェックしておきましょう。

受託開発での職種は大きく4つ

受託開発では、以下の4職種に分けることができます。

職種によって求められるスキル・経験がまったく違ってきますので必ず確認しておきましょう。

営業

受託開発案件の営業は主にクライアントと案件相談、契約を行います

どのようなシステムを、いつまでに、いくらで開発するのかということを詳細に詰めていきます。

このとき、実際に現場のエンジニアに見積もりを依頼し、開発工数からいくらなら開発することが可能なのかをクライアントに提案します。

新規で仕事を取ってくるというのはなかなか難しいため、既存クライアントと良好な関係を築いておき、より好条件の案件を引き出せるかが腕の見せどころと言えるでしょう。

PM(プロジェクトマネージャー)

プロジェクトが円滑に進むように管理を行うのがPM(プロジェクトマネージャー)の仕事です。

予算管理、スケジュール管理、開発チームの連携、クライアントとの調整など多岐に渡る業務をこなしていくため、幅広い知識とスキルが求められます。

SE(システムエンジニア)

システム開発のための要件定義、設計、プログラマーのスケジュール管理を行うのがSE(システムエンジニア)の仕事です。

顧客から要件を引き出し、最適なソリューションを提案するため、システム構築に関してプログラミング言語やミドルウェアの特性を把握して上手く組み合わせる能力が求められます。

また、自分の担当システム(機能)のプログラマーチームの進捗把握、スケジュール調整なども行います。

大手SIer以外は自分でプログラミング業務に関わる傾向が強く、プログラミングも学びたいのであれば、中小SIerでSEになるのもおすすめです。

SEの仕事内容や給料などは「SE(システムエンジニア)とは?仕事内容や平均年収も徹底解説」で具体的に解説しています。

PG(プログラマー)

SEが作成した設計書を元にプログラミングをしていくのがPG(プログラマー)の仕事です。

基本的に設計が完了して、開発フェーズから投入されることが多いですが、上級プログラマーになればSEと一緒にクライアントと会議を行い、技術的に実現可能かどうかを提案することもあります。

そのほかにも、機能テストを行ってバグがあれば修正することも行います。

SEとPGは似たような仕事に感じますが、役割やキャリアが大きく違いますのでしっかりと理解をしておきましょう。

受託開発のビジネスモデルは「技術力✕マネジメント力」

受託開発で何よりも求められるものは「技術力」と「マネジメント力」といえるでしょう。

ソフトウェア製品やサービスの完成を目指す以上、最短距離で高品質なシステムを構築する必要があるためです。

ときには数千万円~数億円という案件にもなる受託開発は、原価(ITエンジニアへの給与)も決して安いものではありません。

受託開発はシステムを納品して売上があがるビジネスモデル

受託開発ではシステムを納品することによって初めて売り上げになるビジネスモデルです。

納品までの IT エンジニアの給料は当然会社が負担することになるので、実質的にコストを先出しする必要があります。

システムを納品することによる報酬は事前に契約によって決まっていますから、確実に予算内で収めるのは必達事項となります。

ITエンジニアの人件費は原価(コスト)の80%以上を占める

システム開発における原価というのは人件費がほとんどを占めます

実に原価の80%以上が人件費になるのです。

開発用のパソコンなども原価に含まれますが、全体からすれば微々たるものでしかありません。

ITエンジニアの1人月の単価は新人でも50万~100万、中級で80万~120万、上級のエンジニアになれば100万~160万円にもなります

参考:システムエンジニアの単価相場

もちろん、システム開発は1人で行うことなどできません。

大規模なシステムにもなれば最大で100人単位のエンジニアが投入されます。

1人50万円として考えたとしても1ヶ月で50万円×100人=5,000万円という費用が発生するのです。

これは最低単価で計算していますので実際にはもっと高額になることがおわかりになるかと思います。

高いプロジェクトマネジメントと生産性で利益を確保!利益率は10%〜30%

システム開発には高額な契約金が動くことも珍しくありません。

会社はさぞかし儲かっているのかと思うかもしれませんが、実は利益率にすると10%~30%程度というのが実情です。

この利益率を少しでも上げるためには、効率的なプロジェクトマネジメントと高い生産性が求められます。

最短距離でスケジュールの遅延もなく納品することができれば、それだけ利益率を上げることができるためです。

反対にスケジュールの遅延が発生すれば、それだけ利益は減少していきます。

最悪、赤字になってしまうというケースも少なくありません。

たとえば、1人月50万円のエンジニアを10人必要とする8,000万円のプロジェクトがあり、システムの完成・納品まで1年を要するとします。

この場合、会社は50万円×10人×12ヶ月=6,000万円の資金を担保しなくてはいけません。

仮にスケジュールが4ヶ月遅れれば、利益はなくなってしまうということになります。

まとめ

受託開発はクライアントからの要望をシステムという形で実現するために1番取られている契約形態です。

ただし、クライアントとの密接なコミュニケーション、正確な見積もり判断がなければあっという間に炎上してしまうという側面もあります。

受託開発と言うと「プロジェクトが炎上する」イメージばかり先行してしまい、悪いイメージを持たれがちです。

しかし、マネジメントがしっかりしている企業を選べば、世の中に貢献できる素晴らしいシステム開発に関わることもできます。

ぜひ、自分に合った企業を見つけてみてください。

サイト監修者

ITエンジニアのアキです。
大手SIerのSEを7年、メガベンチャーのWEBエンジニアを5年経験しています。
名古屋工業大学 大学院 情報工学修士課程を修了、応用情報技術者など複数の資格を取得。 現在は独立し、自社サービスの開発やWeb制作をしています。

Twitter:@it_career_navi

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